サプライチェーン全体の最適化に活かすプロセスマイニング

はじめに:なぜSCM全体最適が求められるのか

需要変動、部材の逼迫、輸送遅延——サプライチェーンの不確実性が常態化するなか、現場は納期管理と在庫水準の両立に苦しんでいます。

実際に、個別最適のダッシュボードでは、跨部門の滞留や再処理の連鎖が見えないのが現状です。そのため、本稿ではSCMにおけるプロセスマイニングという視点で、受発注から倉庫、輸送、会計までの業務を一続きの「実績フロー」として可視化し、全体最適へ舵を切る実務手順を解説します。

関連:プロセスマイニングとは

現状課題:なぜ部門別の管理では限界なのか

サプライチェーンは多層のシステムと組織に跨ります。ERP(基幹業務システム)、WMS(倉庫管理システム)、TMS(輸送管理システム)、MES(製造実行システム)の時刻・粒度・コード体系が揃わず、横断の遅延因果が断片化しがちです。

例えば、受注変更→補充発注→入荷遅延→製造順延→出荷遅れ→請求遅れ、という負の連鎖も、部門の切り口では「それぞれのKPIは達成」になります。その結果、全体のリードタイムとキャッシュフローが悪化してしまうのです。

実績から見える課題

匿名化された公開実績の範囲では、以下のような課題が明らかになっています。

在庫管理の非効率
在庫日数のばらつきがSKU上位30%で±12〜25日に達し、適正在庫の維持が困難になっています。

納期遅延の主因
納期遅延の主因が「出荷待ちの再計画」および「輸送手配の二重化」で全体の35〜50%を占めています。特に、拠点間の処理バリアント(派生フロー)が10〜40種まで増殖している例も見られます。

改善の優先順位の不明確さ
さらに、プロセスマイニングを適用しない場合、会議体での属人的合意に依存し、改善の優先順位が毎月入れ替わるという「戦術疲れ」が起きます。

よくある非効率

  • ステータス更新の二重起票:WMSとERPの非同期による処理の重複
  • 例外処理の独自コード化:バリアント乱立による標準化の困難さ
  • 輸送リードタイムの管理不足:分布管理が平均値のみで、変動への対応が後手に

これらの課題に対し、従来の集計では部門を跨いだ因果関係が見えず、対症療法に終始していました。

プロセスマイニングの解決価値

プロセスマイニングは、イベントログから実際の業務の流れを再構成し、頻度と時間・コストを合わせて可視化します。SCMにおけるプロセスマイニングでは、次の4つの価値が中核となります。

1. エンドツーエンドのボトルネック特定

まず、O2C(受注から入金)とP2P(調達から支払)を横断し、滞留区間を「誰が・どの拠点で・どの条件で」発生させているかを秒単位で特定します。

例えば、ピッキング完了から出荷確定まで平均6.2時間の滞留が特定できれば、そこに限定して最適化を設計できます。これにより、リソースの効率的な配分が可能になるのです。

2. 適合性チェックと標準化

次に、標準手順と実績を照合し、逸脱ルートの発生率と納期影響を自動算出します。

具体的には、拠点Aでは検品→移動→出荷確定、拠点Bでは検品→出荷確定→移動の逆順など、標準化の対象を定量で示せます。その結果、物流連携のSLA(サービス水準合意)遵守率を改善できます。

プロセス可視化ツールの詳細

3. 在庫・キャッシュフローへの直結効果

さらに、現場の滞留を減らすことが、在庫日数(DIO)やキャッシュコンバージョンサイクルにどのようにつながるのかを、実績ベースで確認できます。

在庫の滞留削減や出荷前の再計画抑制、輸送例外の標準化といった SCM領域の代表的なユースケース について、公開情報として共有されている匿名ユースケースや複数のプロジェクト実績を整理すると、プロセスマイニング SCM の活用により、在庫日数で4〜10日、納期遵守率で+3〜7ポイント、輸送リードタイムのばらつきで20〜35%の改善が、導入から3〜6か月程度で見られるケースが多く報告されています。

こうした成果は、イベントログを継続的に可視化し、改善を積み重ねていくプロセスマイニング SCM の運用によって得られたものです。

4. 予測と自動化の橋渡し

最後に、異常パターンを検出し、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やワークフローと連携します。

閾値超過で自動チケット化、担当割当、顧客連絡テンプレートの配信までをオーケストレーションで実行できます。将来的にはデジタルツイン・オブ・オーガニゼーションと組み合わせ、需要変動に対するシミュレーションも可能です。

導入・活用の実践ステップ

ここでは、短期で成果に繋げるための標準ステップを提示します。プロセスマイニングを段階的に定着させるのが要点です。

ステップ1:スコープとKPI設計

対象範囲の定義
まず、上位SKU×主要拠点×代表ルート(30〜90日分の全量ログ)を対象とします。

KPI設定
次に、納期遵守率、リードタイム(工程別分解)、在庫日数、出荷波動時の処理能力、返品リードタイム、請求遅延を設定します。

用語統一
そして、例外コード、返品理由、輸送ステータスをマスタ整備します。

ステップ2:データ連携と品質

必須データ
ERPの受注・出荷・請求、WMSの入出庫、TMSの集荷・配達、MESの製造実績を統合します。

キー項目
ケースID(受注/出荷/輸送)、アクティビティ、開始/終了時刻、拠点、担当、数量、コストを定義します。

品質対策
時刻ズレ補正、重複除去、欠損補完、タイムゾーン統一を実施します。

ステップ3:可視化・発見・優先度付け

プロセスフローで滞留のホットスポットを抽出し、頻度×時間×価値額で優先度を決定します。その上で、バリアント比較で拠点差を特定し、標準化の対象と順序を決めます。

ステップ4:運用設計とベンチマーク

最後に、ダッシュボードでKPIとSLAを継続監視し、四半期ごとに拠点別ベンチマークを更新します。

ROI(投資対効果)は「遅延削減×機会損失回収+在庫削減×資本コスト+請求前倒し×キャッシュ効果」で算定します。

導入プロセスの全体像

よくあるご質問

Q1. どの範囲から始めるべきですか?

影響の大きいSKU×拠点×輸送ルートの三点を絞り込み、PoVを実施します。成功指標は納期遵守率と在庫日数の同時改善です。

Q2. システムが複雑でデータが汚いのですが…

プロセスマイニング SCMは「まず全量、その後にクレンジング」を基本にします。実際に、時刻整合とコード標準化だけで初期の洞察が得られます。

Q3. 現場負担は増えませんか?

手入力を増やすのではなく、既存のイベントログを活かします。

Q4. 小規模なサプライチェーンでも効果はありますか?

効果は規模に関わらず得られます。小規模では、拠点間の連携改善や例外処理の標準化に特に有効です。少ないSKUでも、プロセスの改善余地を明確にできます。

まとめ:部門別最適から全体最適への転換

プロセスマイニング SCMは、部門別の局所最適から全体最適への橋を架けます。

具体的には、実績ログを基盤に、滞留と例外の連鎖を可視化し、標準化と自動化を同時に進めることで、納期管理と在庫のトレードオフを解消できます。次の一歩として、上位SKUと主要拠点を選び、90日データで現状をプロファイリングしましょう。

その上で、成果の出る順序で改善を設計し、四半期ごとにKPI・SLA・ROIをレビューする運用を回し始めることが重要です。

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おわりに:

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対象SKU・拠点の選定からデータ要件の整理、効果仮説の設計までをご一緒に進めます。貴社のサプライチェーン改善を、確実な成果につなげるための第一歩を、ぜひご一緒させてください。

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