異なる部門間の業務スピード差をプロセスマイニングで可視化する

はじめに:なぜ「部門ごとのスピード差」が経営課題になるのか
同じ会社の中なのに、営業部門は「見積もりから受注までが遅い」と感じ、経理部門は「入力依頼が期限ギリギリで来る」と不満を持ち、ロジスティクス部門は「出荷指示がバラバラで、残業が常態化している」と訴える——。
実際に、こうした「部門間の業務スピード差」は、単なる感覚の問題ではありません。受注から入金までのリードタイムが伸びれば、売上計上の遅延、在庫・与信の滞留、顧客満足度の低下といった形で、確実に業績に跳ね返ってきます。
しかし実務では、「どの部門が本当に遅いのか」「どの工程で、どれくらい待ち時間が発生しているのか」といった問いに、客観的なデータで答えられる企業は多くありません。そのため、注目されているのが、プロセスマイニング 部門差を定量的に可視化するアプローチです。
関連:プロセスマイニングとは | Celonisについて
なぜ部門間の処理速度はここまで違うのか
属人化・システム分断・ローカルルールの積み重ね
部門間のスピード差は、単に「人が遅い」からではありません。ベテラン担当者だけが知る「例外処理」が多いと、担当者ごとの処理速度が変わります。さらに、営業はCRM、経理はERP、ロジはWMSなど、別々のシステムで処理することで、データ連携の遅延や手入力が発生します。
従来は、こうした問題をヒアリングやExcelでの手集計で把握しようとしてきました。しかし、主観や記憶に依存した方法には限界があります。
「感覚」と「データ」が食い違う典型パターン
多くの企業で見られるのが、営業は「経理の承認が遅い」と感じている一方、経理は「営業からの伝票がバラバラに来る」と主張するパターンです。
実際のデータを見ると、営業→経理の依頼まで平均2日、経理承認は依頼から平均1日だったというケースもあります。この場合、本当のボトルネックは「経理」ではなく、「営業部門内の処理順序やタイミング」である可能性が高いわけです。
プロセスマイニング 部門差の分析は、このような「思い込み」と「事実」のギャップを埋めるための手法です。
プロセスマイニングで「部門差」をどう測るのか
イベントログから実態を描き出す
プロセスマイニングは、ERPやCRMなどのITシステムに記録されたイベントログ(処理履歴)をもとに、実際の業務プロセスを自動で可視化・分析する技術です。
時間(リードタイム、待ち時間)、組織(部門、拠点)、コスト、ケースの種類といった視点を同時に扱えます。このうち「部門差」を見るときに特に重要になるのが、時間 × 組織の組み合わせです。
部門差分析の3つの基本指標
リードタイム(ケース全体の処理時間)
受注~出荷完了まで、申請受付~支払完了までなど、「端から端まで」の時間を測定します。
工程ごとの処理時間・待ち時間
「営業入力」「審査」「経理承認」「出荷指示」など、ステップごとの所要時間を分析します。
部門別の通過時間・滞留時間
各部門が担当している区間で、どれくらいの時間が費やされているかを把握します。
Celonisによる部門間比較の実践
プロセスエクスプローラーで全体像を把握
Celonisの「プロセスエクスプローラー」では、受注から請求、入金までの流れといった全体のプロセスフローが自動で描かれます。各ステップの平均処理時間、通過したケース数、再処理の発生率を重ねて表示することで、どの工程が「時間を食っているのか」が一目で分かります。
バリアントごとのスピード差を把握
「バリアントエクスプローラー」では、部門Aでは「営業→審査→承認→出荷」、部門Bでは「営業→審査→追加資料依頼→再審査→承認→出荷」といったように、実際に取られているルートの違いを可視化できます。
これにより、「部門Bは例外ルートが多く、その分処理速度が落ちている」といったパターンが客観的に把握できます。
ベンチマークビューで横並び比較
部門・拠点などの単位でKPIを比較するベンチマーク機能により、平均リードタイム、自動化率、再処理率といった指標を横並びで評価できます。
部門差分析を実務に落とし込む5つのステップ
ステップ1:対象プロセスとKPIを決める
受注~出荷~請求~入金(Order-to-Cash)などの対象プロセスと、全体リードタイム、部門別滞留時間などのKPIを明確にします。
ステップ2:イベントログを整備する
ERPや業務システムからケースID、アクティビティ、タイムスタンプ、組織情報を含むイベントログを抽出します。
ステップ3:全体フローとボトルネックを把握する
プロセスエクスプローラーで、どの経路が典型的か、どこで迂回・手戻りが起きているかを俯瞰します。
ステップ4:部門別・拠点別に処理速度を比較する
営業部門別の「受注登録→審査完了」時間、経理部門別の「請求書受領→支払実行」時間などを比較します。
ステップ5:ベストプラクティスを標準化する
最もパフォーマンスの高い部門のやり方をベンチマークし、標準プロセスとして展開します。その上で、改善前後のリードタイム・部門差の変化を継続的にモニタリングします。
事例:病院での部署間スピード差の短縮
ある医療機関では、放射線治療の準備プロセスが複雑化し、患者ごとの治療開始までのリードタイムが長期化していました。2025年に公表された研究では、この病院が電子カルテから取得したイベントログを使ってプロセスマイニング 部門差分析を実施しました。
その結果、主要なボトルネックが2つのステップに集中していることが明らかになり、担当者配置の見直しや作業手順の標準化を実施した結果、治療計画完了までの時間が有意に短縮されたと報告されています。
よくあるご質問
Q1. どの部門から始めるべきでしょうか?
最初は、「部門間の連携が多い」「リードタイムの遅延が利益に直結する」プロセスが適しています。受注~入金(Order-to-Cash)や購買~支払(Procure-to-Pay)が典型です。
Q2. データ品質に不安があります。意味があるのでしょうか?
分析を通じてデータ品質の問題点が浮き彫りになるというメリットもあります。イベントが抜けている工程や日付の不整合が頻発している部門を発見することで、業務プロセスと同時にデータ基盤も強化できます。
Q3. 「遅い」と指摘された部門の反発が心配です
プロセスマイニング 部門差分析は、個人攻撃ではなく、プロセス設計・ルールの問題に焦点を当てます。「最も速い部門のやり方」から学ぶベンチマークの観点を強調することで、"犯人探し"ではなく"成功パターンの横展開"として議論を進めることができます。
まとめ:感覚ではなくデータで「部門差」を語れる組織へ
部門間のスピード差は、「人の頑張り」だけでなく、プロセス設計・システム・KPIの違いから生まれます。したがって、プロセスマイニング 部門差分析により、どの部門・どの工程が本当のボトルネックなのかを客観的に示すことができます。
重要なのは、「営業が遅い」「経理が厳しすぎる」といった印象論ではなく、共通のデータに基づいて建設的に議論できる土台を作ることです。部門間の不信や対立を和らげ、全社最適の観点でプロセスを設計し直すためにも、プロセスマイニングは有効な選択肢となり得ます。
おわりに:
「自社のどの部門が、なぜ遅いのか」を感覚ではなくデータで把握したいとお考えですか?
まずは「ディスカバリーワークショップ」で、部門差可視化のユースケース整理から始めましょう。システム接続なしでの机上試算、投資対効果のイメージ作りを、専門コンサルタントとともに短期間で実施できます。


