プロセスマイニングと単なる業務フロー図の決定的な違いとは?

はじめに:似て非なる2つの手法

経営会議や業務改善プロジェクトで頻繁に登場する「業務フロー図」。そして昨今、急速に注目を集める「プロセスマイニング」。一見すると、どちらも業務プロセスを可視化する手法に思えるかもしれません。しかし、この2つは根本的に異なるアプローチであり、経営判断やKPI改善において生み出す価値も大きく異なります。

プロセスマイニングとは、ERP(基幹業務システム)やCRM(顧客管理システム)に蓄積されたイベントログ(実行記録)を分析基盤とし、実際の業務がどのように遂行されているかを発見・監視・改善する先進的な技術体系です。一方、業務フロー図は、人が設計した手順を図式化したもので、「あるべき姿」を示す静的な設計図に過ぎません。

本記事では、O2C(受注から入金)やP2P(購買から支払)といった主要プロセスを例に、両者の違いと、経営判断・KPI改善においてどのような差が生まれるのかを実務視点で解説します。

プロセスマイニングの基本概念については、こちらのページでも詳しく解説しています。

従来のフロー図が抱える構造的課題

会議室で描かれた「理想」と現場の「現実」

多くの企業では、業務改善の初期段階で関係部門を集め、業務フロー図を作成します。これは全体像の共有には有効ですが、実務で日常的に発生する例外処理、手戻り、待ち時間、属人的判断を十分に反映できません。

結果として、「合意されたフロー」と「実際の業務」の間に乖離が生まれます。

定量化できない「見えないコスト」──ユースケースで見る業務の実態

以下は、プロセスマイニングを業務に適用した際に、どのような課題がどのように可視化されるかを示す代表的なユースケースです。

ユースケース①:製造業におけるP2P(購買から支払)プロセスの承認滞留可視化
支払承認プロセスを分析したところ、特定の承認ステップで案件が滞留しやすい構造が明らかになりました。承認ルートの複雑化により、処理完了までに想定以上の時間を要しているケースが多く、支払条件の最適化が十分に活かされていない実態が浮き彫りになりました。

ユースケース②:流通業におけるO2C(受注から入金)プロセスの在庫引当バリアント分析
受注から出荷までの流れを可視化すると、在庫引当の進み方が複数のパターンに分かれていることが判明しました。一部のパターンでは処理が停滞しやすく、特定の商品で在庫が長期間滞留する傾向が見られました。フロー図では見えなかった業務のばらつきが明確になります。

ユースケース③:ITサービス企業におけるチケット処理の再作業分析
インシデント対応プロセスを分析した結果、特定の種類のチケットで差し戻しや再対応が繰り返されていることが分かりました。対応品質の問題ではなく、プロセス設計や判断ポイントに起因する非効率が、サービス品質の低下につながっていることがデータで示されました。

これらのユースケースが示すのは、業務上の非効率は例外的な出来事ではなく、構造として埋め込まれているという事実です。プロセスマイニングは、その構造を実行データから客観的に浮かび上がらせます。

プロセスマイニングが実現する「データ駆動の可視化」

イベントログが映し出す「真実の業務」

プロセスマイニングは、「誰が・いつ・何を実行したか」というイベントログを一次情報として扱い、実際の業務フローを自動生成します。

中核となる技術は次の3つです。

  • プロセスディスカバリー:実行された業務フローを自動抽出
  • 適合性チェック:標準フローと実態の乖離を定量化
  • プロセス拡張:待ち時間・再作業・コストを重ねて分析

従来手法との決定的な違い

プロセスマイニングには以下の特性があります。

客観性:事実データに基づく意思決定

可観測性:全取引・全ケースを対象に分析

反復性:KPIを継続的にモニタリング

多視点性:時間・コスト・組織などを同時評価

特にCelonisなどの最新ツールでは、注文・請求・品目といった複数エンティティを横断的に扱う「オブジェクトセントリック」分析が可能となり、エンドツーエンドでの可視化が実現しています。

実務での導入ステップと成功のポイント

段階的に進めるのが成功の鍵

プロセスマイニングを実務で活用する際、いきなり全社展開を目指すのではなく、高頻度×高影響の領域から着手することが成功の鍵です。

ステップ1: スコープの特定
O2C(受注から入金)やP2P(購買から支払)など、高頻度・高影響の領域から着手。

ステップ2: データ設計
ケースID・タイムスタンプ・アクティビティの3要素を整理。

ステップ3: 初期分析
プロセスバリアントとボトルネックを特定。

ステップ4: 拡張分析(PQL)
リードタイム、在庫滞留、再作業率を定量化。

ステップ5: 是正・自動化
RPAやワークフローで改善を実装。

ステップ6:継続運用
KPIを定点観測し、改善を反復。

Celonisの可視化から実行までの一連のフローは、この段階で特に威力を発揮します。

ROI算出の実務的な考え方

プロセスマイニング導入のROI(投資対効果)は、以下のような観点で算出できます。

効果単価 × 件数
リードタイム短縮による在庫回転率改善、キャッシュフロー向上。

逸脱削減 × リスク単価
SLA違反や追加コストの削減。

自動化の波及効果
発見された定型ルーチンをRPA化することで、工数を削減。

Celonisが提供するAI分析と改善提案機能は、こうした効果をさらに高めるための強力な支援ツールとなります。

よくある質問とその回答

Q1. フロー図があれば十分ではないでしょうか?

A. 不十分です。フロー図は「あるべき姿」を示すものであり、実際の業務で発生する例外処理や再作業の位置・規模を捉えることはできません。プロセスマイニングは、設計図(フロー図)と実行ログ(実態)を比較することで、初めて具体的な改善ポイントが明らかになります。両者を組み合わせることで、議論のスピードが格段に向上します。

Q2. データ品質が不十分な場合はどうすればよいですか?

A. データ品質の確保は重要ですが、標準的な前処理手順で対応可能です。ケースIDやタイムスタンプの欠損・重複は、抽出段階でのルール設定やクレンジング処理で解決できます。多くのプロセスマイニングツールには、データ品質チェック機能が組み込まれており、段階的に品質を高めることができます。

Q3. どの業務プロセスから着手すべきですか?

A. O2C(受注から入金)やP2P(購買から支払)が「鉄板」です。これらのプロセスは取引頻度が高く、金額的インパクトも大きいため、データの可用性も高く、ROIが出やすい領域です。プロセスマイニングの適用分野として、多くの企業がこれらの領域から開始しています。

まとめ:データで業務を「写す」時代へ

小さく始めて大きく育てる

フロー図が示すのは「意図された姿」。
プロセスマイニングが映すのは「実際に起きている事実」です。

両者を組み合わせることで、乖離を定量的に捉え、KPIやSLAに直結する改善を高速に回せるようになります。

まずは小さなPoCから始め、データで改善余地を示すこと。
それが、持続的な業務改革への最短ルートです。

実務に踏み出すためのリソース


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