製造ラインの停止要因をプロセスマイニングで特定する手順

なぜ計画外停止の削減が重要なのか
製造現場の稼働率(OEE:設備総合効率)を押し下げる最大要因の一つが、計画外停止の多発です。しかし、停止ログや作業日報、MES(製造実行システム)/ERP(基幹業務システム)、保全記録が部門ごとに分散しているため、停止の前後関係や再発条件を一貫して把握・改善することが困難です。
実際に、単発の停止原因票やダッシュボードは「何が起こったか」は示すものの、「なぜ繰り返すのか」「どの順序で積み重なったのか」までは示しません。そのため、本稿では製造停止データを起点としたプロセスマイニングの活用により、イベントログ(時系列の実行履歴)で実態のフローを復元し、停止のトリガーから現場の是正アクションまでをつなぐ実務的な進め方を解説します。
関連:プロセスマイニングとは
現状課題:なぜ停止分析だけでは改善が進まないのか
従来の集計では、段取り替え→品質検査の手戻り→清掃待ち→再立上げという連鎖が、一括りの「停止」に見えてしまいます。その結果、稼働率の改善は対症療法に終始しやすいのが現状です。
計画外停止とばらつきが引き起こす現場課題
中小〜中量産規模の製造現場では、計画外停止が発生しやすく、停止要因や再発条件を十分に把握できていないケースがあります。同一ラインでも稼働状況や再立上げ時間にばらつきが生じ、生産計画に影響することも少なくありません。
プロセス産業では、洗浄や切替作業前後で品質のばらつきが発生することがあります。
停止ログや工程データを時系列で可視化することで、改善の優先ポイントを整理しやすくなります。
既存手法の限界
- 停止理由コードの粒度不一致:標準手順との適合性チェックができない
- 横断分析の困難さ:設備/人/ロットの横断分析(オブジェクトセントリック)が困難で、再発条件の同定が遅い
- 改善サイクルの遅延:ベンチマーク更新が年次で、現場の改善サイクルと乖離
これらの課題に対し、従来の集計BIでは停止の"道筋"が見えず、原因の切り分けと対策の優先度付けが遅れていました。
プロセスマイニングの解決価値
製造停止データを起点としたプロセスマイニングは、MES・ERP・保全CMMS・品質LIMS・日報をつなぎ、実行フローを自動で可視化します。その結果、イベントID、タイムスタンプ、アクティビティ名、リソース(人・設備)を整えることで、停止の直前・直後のパターン、待ち時間のヒートマップ、承認の往復が一目で分かるのです。
3つの基本アプローチ
発見(Discovery)
まず、停止の前後関係を直接従属性で描き、バリアント別に頻度とリードタイムを比較します。これにより、ライン別、設備別の停止パターンが明確になります。
適合性チェック
次に、標準復旧手順と実態の乖離を定量化し、ガバナンス(統制)を強化します。
強化(Enhancement)
最後に、AI(機械学習)で再発確率を推定し、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やアラートで介入します。
従来の集計BIがスナップショットを示すのに対し、製造停止データを起点としたプロセスマイニングは停止の"道筋"を提示するため、原因の切り分けと対策の優先度付けが速くなります。さらに、O2C(受注から入金)やP2P(購買から支払)にも接続でき、部材遅延や検収遅れが生産停止へ波及する構造も把握できます。
停止データ活用による改善の方向性
製造業では、ライン停止ログや作業記録を活用したプロセス分析により、改善の方向性を検討する取り組みが進められています。たとえば、短時間の停止が発生しやすい工程やタイミングを整理し、事前の気づきや対応につなげることで、稼働率の底上げが期待されるケースがあります。
また、保全対応や調整作業の流れを可視化し、承認や連絡のプロセスを見直すことで、復旧までに要する時間を短縮しやすくなる場合もあります。その結果、計画外停止の影響を抑え、現場対応の負荷を軽減できる可能性があります。
さらに、実際の作業の流れをもとに標準作業との違いを把握することで、ばらつきの大きい工程を特定し、作業手順の見直しや定着を図ることも考えられます。こうした取り組みを通じて、仕掛在庫の滞留を抑え、生産の安定化につながるケースも見られます。
このように、製造ラインの停止ログや作業記録を時系列で捉え、継続的に状況を確認しながら改善を検討していくことは、現場運用を見直すための一つのユースケースといえます。
導入・活用の実践ステップ
5つの実装ステップ
1. 対象範囲の定義
まず、停止を「起票→承認→復旧→検証」まで一連で扱い、設備・ロット・作業者のキーを定義します。
2. データ接続
次に、MES/ERP/日報/保全・品質をAPI/ETLで結合し、命名規則を標準化してタイムスタンプの整合を取ります。
3. 発見と適合性チェック
続いて、上位10バリアントを抽出し、各々の待ち時間ヒートマップと標準手順乖離を可視化します。
4. 改善とオーケストレーション
そして、SLA閾値(例:復旧30分)を設定し、逸脱時はRPAで保全起票・パーツ在庫引当を自動化します。
5. 継続運用
最後に、月次でベンチマーク更新、ガバナンスレビュー、現場カンバンへのフィードバックを行います。
成功のポイントとROI
成功要因
データ品質(重複・欠損)対策、停止理由の粒度統一、設備・人・ロットのオブジェクトセントリック設計、現場の標準作業票アップデートが重要です。特に、製造停止データを起点としたプロセスマイニングは初期から完璧を狙わず、価値の出る経路に絞って段階的に広げることが肝要です。
ROI算出
復旧リードタイム短縮×稼働時間単価+計画外停止減少×日次産出量×粗利率+再作業削減×平均工賃で定量化します。
よくあるご質問
Q1. 停止理由が自由記述でバラバラですが、始められますか?
始められます。実際に、必須項目(開始・終了・設備・ロット)を優先し、自由記述はテキストマイニングでクラスタ化します。その後、PQLで「清掃待ち→再立上げ失敗」などの条件抽出を先に回し、分類基準は後追いで整備すればよいのです。製造停止データを用いたプロセスマイニングの適用は部分的な構造化からでも十分に価値が出ます。
Q2. リアルタイムで介入できますか?
段階的に可能です。まずは日次の増分連携で傾向把握、次に準リアルタイム連携でSLA逸脱を検知します。その上で、RPAや通知で"止めない仕組み"へ移行できます。
Q3. 小規模な製造ラインでも効果はありますか?
効果は規模に関わらず得られます。小規模ラインでは、作業の属人化解消や停止ノウハウの標準化に特に有効です。少ない停止件数でも、プロセスの改善余地を明確にできます。
Q4. 既存の保全システムと併用できますか?
併用可能です。保全CMMMのデータと停止ログを統合することで、より精度の高い分析が可能になります。むしろ、製造停止データを活用したプロセスの可視化と分析で業務の実態を把握した上で保全システムを最適化することで、システムの効果も高まります。
まとめ:停止を"流れ"で捉えて稼働率を向上
停止は"点"ではなく"流れ"で起きます。したがって、製造停止データを活用したプロセスマイニングは、その流れを再現し、再発条件と復旧のムダを可視化します。
具体的には、発見→適合性チェック→強化のループを小さく速く回し、稼働率と品質を同時に引き上げることが重要です。まずは停止の上位バリアントに絞り、標準手順とSLAを現場に合わせて磨き込むことが肝要です。
おわりに:
最初の2週間で「停止起票→承認→復旧→検証」のイベント定義を固め、上位10バリアントの待ち時間ヒートマップを作成しましょう。
翌2週間でSLA閾値とアラート動線、RPAによる保全起票・部品引当の自動化を試作し、効果を定量評価してください。実装の具体設計やPQLの書き方、AI活用については、無料ディスカバリーワークショップをご活用ください。


