製造現場の作業日報を活用したプロセスマイニング活用例

なぜ作業日報の活用が製造業の課題なのか
製造現場には、作業日報や工数管理台帳、設備稼働ログなど膨大な記録が眠っています。しかし、日報は自由記述やExcelで散在し、ライン別の作業進捗やリードタイムの遅延が"点"でしか把握できないことが多いのが現状です。
実際に、日報には作業名・開始終了時刻・担当・ロット・不良内容といった重要データが含まれています。しかし、入力の粒度や命名ルールが統一されていないため、集計BIだけでは実作業の流れや再作業(ループ)がどのように発生しているかを把握できません。そのため、本稿では作業日報を起点としたプロセスマイニングの適用により、日報のイベントログ化と可視化を通じて、ムダの特定から標準作業の定着、サイクルタイム短縮までを実務的に解説します。
関連:プロセスマイニングとは
現状課題:なぜ日報だけでは改善が進まないのか
従来の日報管理では、工程間の待ち時間や段取り替えの頻度、承認フローの滞留が把握できず、結果として在庫や仕掛の増大、納期遅延につながっています。
工程データから浮かび上がる運用上の課題
製造現場には、作業日報や工数管理台帳、設備稼働ログなど多くの工程データが蓄積されています。しかし、これらのデータは部門や工程ごとに管理されていることが多く、プロセス全体を通した業務の流れや滞留ポイントを把握しにくいのが実情です。
中量産・組立系の現場では工程間のばらつきが生じやすく、プロセス産業では切替や立上げなど非定常作業前後の記録漏れが課題になることもあります。
工程データを End-to-End で可視化し、実際の業務の流れに沿って分析することで、滞留やばらつきを捉え、改善検討につなげることが重要です。
既存手法の限界
- 静的レポートの壁:バリアント(経路の種類)や再作業の発生条件を特定しづらい
- データ統合の課題:部門間で命名やコードが不統一で、標準手順との適合性チェックが困難
- 改善サイクルの遅延:効果検証が年次の棚卸し頼みで、ベンチマーク更新が遅い
これらの課題に対し、従来の集計では"なぜその結果になったのか"という因果関係の解明が困難でした。
プロセスマイニングの解決価値
プロセスマイニングは、日報・MES(製造実行システム)・ERP(基幹業務システム)・設備ログを統合し、実際の工程フローを自動再構成します。その結果、イベントIDとタイムスタンプ、アクティビティ名、リソース(人・設備)を標準スキーマに揃えることで、待ち時間のヒートマップやボトルネック、承認の往復などが一目で判別できるのです。
3つの基本アプローチ
発見(Discovery)
まず、実測の流れを描き、バリアントとリードタイム分布を把握します。これにより、ライン別、作業者別の業務プロセスの違いが明確になります。
適合性チェック
次に、標準作業票に対する逸脱箇所と頻度を定量化し、ガバナンス(統制)を強化します。
強化(Enhancement)
最後に、AI(機械学習)で遅延の予兆を検知し、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と連動して是正します。
さらに、O2C(受注から入金)やP2P(購買から支払)に跨る前後工程との接続により、サプライチェーン全体での最適化が可能です。ロットや設備、工順といった複数の対象データを横断的に捉えることで、設備メンテと人員配置のオーケストレーションも磨けます。
プロセス改善のユースケース
作業日報データをプロセスマイニングで分析することで、段取り替えや工程移行の流れを可視化し、改善の検討につなげるケースがあります。たとえば、段取り替えの順序を見直すことでサイクルタイムの短縮が期待できたり、工程間の待ち時間を把握することで、検査の再実施が発生しやすいポイントを特定できるようになります。
また、工程の切り替えや移行タイミングを整理することで、仕掛在庫の滞留を抑えられる可能性もあります。こうした取り組みを通じて、在庫の圧縮や業務負荷の平準化につながるケースも見られます。
このように、作業日報を起点としたプロセスマイニングは、単なる状況把握にとどまらず、改善ポイントを継続的に見直していくための基盤として活用されるユースケースの一つです。
導入・活用の実践ステップ
6つの実装ステップ
1. 対象工程の特定
まず、前加工〜最終検査のうち、滞留が大きい区間に焦点を当てます。
2. データ収集
次に、日報、設備信号、ERP受注データをAPI/ETLで統合し、命名規則を標準化します。
3. モデル設計
続いて、イベントログのキー(ロットID、作業ID)、タイムスタンプ、担当者・設備を定義します。
4. 可視化と適合性チェック
そして、待ち時間ヒートマップと標準手順の乖離を抽出します。
5. 改善と自動化
その上で、SLAの閾値・アサイン規則を更新し、RPAで承認・起票を自動化します。
6. 継続運用
最後に、ベンチマーク更新と監査ログで効果をモニタリングします。
成功のポイントとROI
成功要因
データ品質(重複・欠損)対策、標準作業の定義と運用のオーナーシップ、KPIとSLAの整合、現場へのフィードバックループ(日報UI改善)が重要です。
ROI算出
サイクルタイム短縮×月次出荷量×粗利率+再作業削減×平均工賃+納期順守率向上によるペナルティ回避で定量化します。特に、作業日報データを活用したプロセスマイニングを段階導入し、まずは工数管理と作業進捗の精度を高めることが効果的です。
よくあるご質問
Q1. 自由記述が多い日報でも使えますか?
可能です。実際に、初期は主要項目(作業名・開始終了・ロット)を必須化し、自由記述はテキストマイニングで分類します。その後、PQL(プロセスクエリ言語)や簡易ルールでイベント化し、段階的に所要項目を追加すればよいのです。プロセスマイニングは、部分的な構造化からでも価値が出ます。
Q2. 設備ログやMESがない現場は?
日報だけでも開始・終了・担当の粒度が揃えば、待ち時間と再作業は可視化可能です。その後、設備ログや検査データを追加し、オブジェクトセントリックに拡張します。まずは工数管理や作業進捗の改善から着手しましょう。
Q3. 小規模な製造現場でも効果はありますか?
効果は規模に関わらず得られます。小規模現場では、作業の属人化解消や、ノウハウの標準化に特に有効です。少ないロット数でも、プロセスの改善余地を明確にできます。
Q4. 既存のMESシステムと併用できますか?
はい、問題なく併用できます。MES による設備・工程データに、作業日報の情報を組み合わせることで、現場の動きをより立体的に捉えることができます。作業日報から業務の流れを把握したうえで MES を活用することで、システム全体の改善につなげやすくなります。
まとめ:日報データで製造プロセスを最適化
日報は"現場の真実"ですが、ばらついたままでは改善に結びつきません。したがって、作業日報データを用いたプロセスマイニングの適用により、工程間の待ちと再作業、承認の往復を可視化し、標準化と自動化を通じて継続的に改善できます。
具体的には、まず対象工程を絞り、日報の必須項目を整えて小さな検証から始めるのが成功の近道です。その上で、継続的な改善サイクルを確立していくことが重要です。
おわりに:
最初の1〜2か月で、対象工程の「起票→承認→実作業→検査」経路を抽出し、待ち時間ヒートマップと適合性チェックをダッシュボードに追加してください。
改善設計(PQLの作り方、RPA連携、AI予測の適用)については、無料ディスカバリーワークショップを活用するとスムーズです。貴社の製造プロセス改善を、確実な成果につなげるための第一歩を、ぜひご一緒させてください。


